
ド北部から北海北部を経て海底地形の深みに沿ってノルウェー海に流入するノルウェー海流の動向である(図2)。ノルウェー海はこの海流の影響を強く受けるためノルウェーの周辺海域で水温・塩分が最も高い。ノルウェーの西方を北上したノルウェー海流は、さらにスバールバル諸島の陸棚斜面に沿って北極海のフラム海峡まで北上を続けるが、その一部はバレンツ海に流入する。このノルウェー海流が北方への熱の輸送にきわめて重要な寄与をしていることは古くから知られており、ノルウェーの海洋学者として著名なヘラルド・ハンセンとナンセンは、ノルウェー海流による熱の輸送に対応して西ノルウェー(ソグネフィヨルド)と北ノルウェー(ロフォーテン諸島)、バレンツ海で水温変化が1年ずつ遅れて現れること、バレンツ海における海氷の発達度合とノルウェー海流の水温との間に密接な関係があることを1909年に報告している。図3にはバレンツ海沿岸のコラ半島(図1)沖の観測定線における水温偏差の1960年以降の変動と海氷指数の関係を示す。さらに興味深いのは、結氷面積の小さい高水温年にマダラなどの漁業資源が増大する傾向がみられることである。これはすなわち、北大西洋海流の動向に起因する海洋変動が、この海域の生態系や資源の変動の重要な契機となっていることを示唆しており、この問題は気候変動の海洋生態系への影響の解明を目的とするGLOBEC(Global Ocean Ecosystem Dynamics)という研究プログラムの主要課題の一つとして取り上げられている(3.11参照)。北上するノルウェー海流と北極海から南下してくる東グリーンランド海流などの寒流との間には顕著な極前線が形成され、それが生物生産に大きく寄与することもあってノルウェー海やバレンツ海は世界でも有数の好漁場として知られている。 一方、北海に面しているノルウェーの南西部沿岸には深い海底谷(ノルウェー海溝)が存在し(図4)、北大西洋海流の一部はその深みの西縁に沿って最も水深の深い(700m以上)スカゲラク海峡に向かう(図5)。一方、北海の海水は基本的に反時計廻りに流れる傾向を持っており、これもドイツやデンマークの沿岸を経由しながらスカゲラク海峡に向かう。スカゲラク海峡付近に収束した海水はさらにバルト海やノルウェー沿岸の低塩分水と混合しながら、ノルウェー沿岸海流(またはバルト海海流)となり北大西洋海流の分枝の沿岸側をノルウェー南西岸に沿って北上する。図からもうかがえるように、この両者の間には明瞭な水温・塩分のフロントがみられ、その境界面の変動にともなって中規模の暖・冷水渦が多数形成される。この海域で最も水深の深いスカゲラク海峡付近には、上述のような海水循環特性とあいまって、北海やバルト海に流入した種々の物質が輸送・集積され滞留・沈積する傾向が強いことから、その海底面の汚染が懸念されている。実際に1980年代の終わり頃には、この海域を中心として多数のアザラシのへい死事件や有毒赤
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